2017年6月27日火曜日

エデン謎講義質疑応答



イスラームについて
▼シーア派とスンナ派は、なぜここまで争うのか
答: どこまで?近世ヨーロッパの人口が3分の1に減ったと言われるプロテスタントとカトリックの殲滅戦のような争いはシーア派とスンナ派との間では、歴史上も現在も起きていません。
▼イスラム教徒が、少数民族を攻撃するのは何故か
答: イスラームは民族で人間を区別しませんので、少数民族への攻撃は存在しません。
▼イスラム法学の一派であるワッハーブ派が、コーランの復古主義的解釈をおこなっており、なおかつ当法学派が、サウジアラビアでの影響力が絶大であり、結果としてテロを行う過激派の理論の土台になっているとアメリカの情報機関が指摘していると聞いたことがあるが、中田先生はイスラム法学者という立場から、ワッハーブ派に過激になる要素が他の法学派より多いと思うか。なぜワッハーブ派が一国の国教として受け入れられるまでになったのか。
答: ワッハーブ派の特徴は、イスラーム内部のシーア派、及びスンナ派伝統的な神学、神秘主義の全否定、背教者認定にあり、イスラームにおいて背教罪が死刑であるため、イスラーム世界内部で、他のイスラーム諸宗派と暴力的衝突を起こす可能性は高いが、異教徒に関する限り、他宗派と教義上の違いはほとんどない。
 サウジアラビアで国境になったのは、アラビア半島内陸部が、他宗派の文化的影響が少なかったので広まりやすかったため。
▼日本ではハラルフードの対応が進んでいないと感じるが、オリンピックに向けてもっと広めるべきなのか。
答: ハラールフードなどというものは、日本人のイスラームへの無知に付け込んだイスラームの教義に反して詐欺師の利権屋たちが売り込んでいるものであり、神を冒涜する呪われた悪行。
▼イスラーム研究者は日本にもいるが、何故改宗までしようと思ったのか。ムスリムとして日本で不便はないか。
答: 私の場合は、イスラームが真理だから入信した、のだが、入信動機は人により様々、人類学系だと、フィールド調査でムスリムの方が入って話を聞きやすい、という理由で入信した者もいる。
不便かどうかは、真摯なムスリムは、そもそも不便かどうかなど気にしないので、あまり不便を感じないし、熱心でないムスリムはそもそもイスラームの教えに従って生きていないので、やはりあまり不便を感じていない。


ISについて
世界のイスラム教徒たちはイスラム国の存在をどう思っているのか
答: ムスリムのほとんど(99.9%以上)はイスラームの教義を詳しくは知らず、特にイスラーム政治論については大学でイスラーム学を専攻している者でもあまり知らないので、自分の意見は持っていない。新聞、テレビ、ネットなどの反イスラーム国のプロパガンダをうのみにしているだけ。
▼イスラム国は無差別なテロをヨーロッパなどで起こす事で、世界にどのようなメッセージを伝えようとしているのか。
答: ヨーロッパがイスラーム世界でこれまで行ってきた、そして今も行っているムスリムの殺害、弾圧は不正であり、裁かれなければならないことを思い起こせ、とのメッセージ。
▼イスラム国がテロを起こしている国やタイミングは、何か大きな計画の一つなのか。世界の反応を予想しての事なのか。
答: 事件のほとんどは、指導部の指令に基づくものではなく、「一匹狼」型、「野良犬」型と言われる、共鳴者(たち)が単独で立案、実行したもの。しかし中には、指導部の援助を受けたものもある。
大きな計画としては、(1)異教徒にイスラーム世界で自分たちが行ってきた罪状を気付かせること、(2)イスラームへの恐怖から、ムスリムへの弾圧を強化することによって、ムスリムに異教徒の下で暮らすことの誤りに気付かせ、弾圧に報復するか、イスラーム国への移住を促すこと。
▼今後の5年後、10年後のイスラム国はどうなっていくのか。
答:5年後、10年後に、世界が存在するか、サウジアラビア、シリアなどの国が存在しているかも疑問。重要なのは、イスラーム国ではなく、カリフ制の再興。
▼(ブランディング化に関する質を踏まえ)現代、ISに参加することの線引きはどこにあると考えるか?
答: カリフ・バグダーディーか、その代理人であることを直接確認できた者との間で個人的忠誠誓約を交わすこと。
▼ISによるテロ行為が始まって以来、日本にいるイスラム教徒と日本人の関係はどうなったか。(阪上)
答: ほとんど影響なし。いろいろ不利益を被っているのは私だけ(イスラーム関係の本を沢山出せたのは望外の幸運)
▼現在のISのサイバー攻撃能力はどのくらいか。
答:申し訳ないけどITに弱いのでよく分からない。ニュースを見る限り、ほとんどないのでは。
▼ISの組織のトップの人は、宗教の教義を利用して(人が宗教を信じる心を利用して)人を動かしているという側面はあるのか? 
答: ISに限らず、イスラームでは宗教の教えが行動指針になるべきなので、学識がある者の教えを学識が劣る者が尊重するのは当然。しかし現実にはムスリムの大半はそもそもイスラームの教えに従って生きることに興味が殆どないので、学識者の意見も尊重されることは少ない。
テロリズムについて
▼日本でのテロの可能性はあるのか。イスラム国は日本をどう見ているのか。       
答: イスラーム神学は、必然存在(造物主)の存在以外の世界のすべての事象を可能と考える。「可能性」であれば、左翼(無神論者)であれ、右翼(神道)であれ、政権与党であれ、天皇主義者であれ、仏教団体であれ、キリスト教団体であれ、あらゆる個人、集団がテロを起こす可能性があり、イスラームだけが例外的に可能性がないということはない。
▼先日、テロ等準備罪が可決されたが、日本に対してプラス、或いはマイナスどちらに働くと考えているか。
答:もともと法律は恣意的に運用されているので、いずれにしても大きな影響はないが、プラスに働くケースはほとんど考えられない(治安当局の無能さを考えると)
▼東京オリンピックが狙われる可能性はあるか。
答: 可能性は、すべてにあるが、ゼロの誤差の範囲内。むしろ理論上は、警備が東京に集中するので、地方で事件を起こすのが容易になるので、オリンピック期間に地方都市を狙うのが効率的だが、それも机上の空論。
▼テロが暴力装置としての単純な様相から、ISが後発的に声明を出しテロリズムとして仕立て上げるような傾向があるように思われる。ISからすればブランディング化であり、テロリストからすればISへの共鳴であるこの相互関係はどの様な利益構造になっているのか?またテロリスト側から見たテロリズムを起こす上での誘因は何か?
答: IS側からは存在アピールであり、そもそも合法的な手段でその主張を広める道が閉ざされているため、なんであれ、話題になり、彼らの主張に耳を傾けるきっかけが生ずることはメリット。実行者の側では、自己の行為に、ISによってジハードして正当化されるメリット、話題になることが好きな者なら、話題になるメリット。
▼テロリストのメンタリティとして、死ぬことを正当化するとはどういったものなのか?日本社会との死生観の違いはどのようなものか?
答: イスラーム教徒であれば、誰であれ、死後の復活と天国と地獄を信じており、ジハードの殉教が最高の死に方であることに関しては、コンセンサスがある。
▼近年EUをはじめとする先進国で顕著なHome-grown terroristの生い立ちや発生過程はどのようなものか?
答: 人それぞれで共通項は少ない。イスラームを少しでも学べば、イスラーム世界の現状がイスラームの教えから完全に逸脱していることまでは誰でも分かり、そもそもヨーロッパのような異教徒の国に自分が住んでいることの問題性にも気づく。そこから、自分がどうするべきか、への答を見い出すには、知性や文化資本の他に、当該社会で過去にどう扱われてきた、現在どういう地位にあるか、といった、社会経済的要因、家庭環境、教育などが人格形成に与えた心理的影響など、さまざまな要因によって差が生ずる。
▼ISの主要指導者層がいなくなった後もテロリズムは続くのか。また、次世代のテロリズムはどのような様相を見せるのか?
答: 続く。ISだけでなく、世界自体の未来がもはや見通せない。
▼何故テロリストはテロ行為に及ぶと考えるか。意思表明、目的達成のためには様々な手段がある中で何故無差別殺人を選ぶのか。
答: そもそも無差別ではなく、様々な手段がある、というのも間違えだが、無差別殺人を選ぶには、一番手っ取り早く、目立つから。

その他
▼スペインでの住民投票で、イスラム系移民の数が多かったことで、その地方の伝統文化である闘牛場がモスクに建て替えられたという話がある。これはイスラムとヨーロッパの文化対立という側面と、その文化対立の枠組み自体が「住民投票」という非イスラム的なものになっているというねじれた側面、そしてその枠組みの中ですらイスラムが勝利を収めたというさらにねじれた側面がある。これに対する姿勢は一概にイスラム系移民を支持しても、民主主義(住民投票)を肯定する可能性を孕むし、逆に民主主義(住民投票)を否定しても、今度はイスラム系移民の意思を否定してしてまう可能性がある。大変難しい問題である。民主主義とイスラム教の価値観のバランス感覚の取り方の難しさ、文化対立が、本来多様な意見を包摂して多様性を確保するはずの民主主義によって、むしろ激化しているように思うが、イスラム法学者としての立場から民主主義は、イスラム法学や価値観、社会のあり方とは相容れない部分はあるとお考えか。今後も対立は深まっていくのだろうか。
答: 民主主義自体には多様な意見を包摂する機能は存在しない。それは民主主義とは対立する自由主義の考え方。現行の「自由民主主義」は、ご都合主義の日和見の折衷の制度であり、場当たり式に利害を調整することはできても、まじめな議論に耐えうるものではない。
▼IS、アルカイダなどの組織は何故生まれると考えるか。彼らの思想や行いをどう見ているか。→教化される人々や子どもではなく、組織の柱となるような宗教的思想を所有する人々はどのような人生をたどることで現状に至るのか。例があれば教えていただきたい。
答: イスラームの合法政体カリフ制(イマーム制)が存在せず、イスラームの教えが全く実践されていないため。ただし、IS、アルカイダはスンナ派の中でも少数派のサラフィー主義、その中でも少数派のサラ―フィー・ジハード主義に属するので、もともとイスラーム教徒の多数派から支持される可能性は極めて低かった。

2017年6月19日月曜日

「サウジと断交でどうなるカタール」

「サウジと断交でどうなるカタール」

於:2017年6月18日                    イベントバー・エデン

中田考(同志社大学客員教授)

*6月5日:サウジアラビア、UAE、エジプトがテロ支援を口実にカタルと断交(輸出入・領空通航禁止、カタル人国外追放)その後イエメン、バハレーン、モーリタニア、モルジブ(リビヤ)が追随
*サウジ自身の発案でなく、UAEの駐米大使(Yousef al-Otaiba)が、米国のイスラエル系のネオコンなシンクタンク(Foundation for Defense of Democracies)と謀って進めた(ジム・ローブ)
*カタル(1995年王室革命ハリーファ→ハマド2013年タミームに譲位)天然ガス産出量 世界第4位(イランと共有するガス田(ノースドーム・ガス田/サウスパルス・ガス田)は世界最大埋蔵量)
カタルは日本の天然ガスの輸入先第4位 日本はカタルの輸出先第1位
石油に関してもカタルは輸入先第3位 第1位がサウジアラビア、第2位がUAE(アラブ首長国連邦)  
サウジアラビアは世界最大の産油国(世界の石油の60%がペルシャ/アラブ湾岸に集中)
*日本のエネルギー事情にも影響
(マクロ)湾岸の緊張激化:イランとサウジの対立+見通しの立たないトランプ政権の迷走
(ミクロ)サウジが日本にカタルとの貿易の中止の圧力をかければエネルギー事情逼迫
*現時点では2021年に契約が切れるカタルとのガス供給契約の更新で日本が優位に
*サウジ、UAE、カタルはGCC湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council)加盟国
*GCC:1979年2月のイラン・イスラーム革命をうけて、1981年5月25日イランを仮想敵国に湾岸アラブ産油国による安全保障機構として設立された(イラン革命以前の敵はアラブ社会主義諸国)
*GCC諸国の特徴は石油収入による豊さと外国人労働者比率の高さ GCC外国人比率(2009年):サウジ32 オマーン35.7 バハレーン49.4 クウェイト68.1 カタル81.0 UAE88.1
*加盟国内最大人口、世界一の石油埋蔵量、二聖地マッカ、マディーナを擁するサウジが盟主的地位
「(クウェイトおよび湾岸アラブ諸国は『国籍(citizenship)』に基くエスノクラシー)『国籍に基くエスノクラシー』という分類は、ロングヴァが論じるように、やや奇妙だ。というのも、『人種』や言語、性別を元に同一国民の中で権利の格差を設けることは国際的にも非難されうるが、国籍に基く権利の格差は国際的に当然のこととみなされているため、議論にすらならないからである。」松尾昌樹「湾岸アラブ諸国のエスノクラシー」(『白山人類学』16号2013年3月)
*そもそも「国民国家」とも言えない国々
*2014年、エジプトのシシが軍事クーデターでムルスィー(ムスリム同胞団)政権を転覆した時、シシを支持したサウジ、UAEがシシ支持を拒否したカタルから大使召還(8か月)
*カタルのテロ支援容疑:カタル王族26人がイラクで誘拐。身代金10億ドル支払い。7億ドルはイランとイラクのシーア派民兵組織、残りの3億ドルはシャーム自由人やシャーム解放委員会に渡ったとされる(FT紙)。
*カタルの独自性:1996年アルジャジーラ設立アラブで最も自由なテレビ、アラブ「民主化」に貢献
 全方位外交:特に「国際テロ組織」タリバンの政治局をドーハに開設(カルダーウィーが仲介)
*断交のきっかけ:カタル国営通信が、イランとの友好、同胞団支持を放映(ハッキング??)
*サウジとUAEは、カタルのテロ支援(イラン、同胞団(ハマス)、IS)を口実にカタルと断交
 三正面戦争:1.イラン(シーア派) 2.ムスリム同胞団、3.イスラーム国
*全て勝てない戦い。しかしトランプの反イスラーム政策に乗じて攻勢。
*トルコとイラン、即座に支持表明。イラン・トルコは物資輸出、トルコは軍の増派(五千人)決定
*トルコ・カタル枢軸:ムスリム同胞団支援
 トルコ:伝統スーフィズム(ナクシュバンディー)+ムスリム同胞団
 カタル:ワッハーブ派、ムスリム同胞団、タブリーグ
*UAEの主要敵はムスリム同胞団、対ムスリム同胞団で、サウジアラビアとエジプトが野合
*湾岸戦争以降サウジはムスリム同胞団によるワッハーブ派の政治的覚醒を強く警戒
 UAEはアラブの春以降、ムスリム同胞団がクーデターを計画したとしてテロ組織認定し弾圧
*ムスリム同胞団:アラブ諸国に会員を抱えるアラブ最大の汎アラブ・イスラーム改革運動
 インド亜大陸のジャマーアテ・イスラーミー、トルコのメッリー・ギョレシュ、AKP(公正発展党)、インドネシアのPKS(公正繁栄党)、マレーシアのPAS(汎マレーシア・イスラーム党)、アフガニスタンのヒズビ・イスラーミーなどと連携、欧米でも協力して活動
*対イランで最も重要なのはイエメン(イラク、シリア、レバノンは既に敗北が確定)。
 2015年3月イランの影響を受けたシーア派ザイド派のフーシー派がクーデターで首都サナア制圧
 → サウジアラビアが主導しアラブ連合軍を組織。亡命したハーディー大統領を担いで内戦介入
 イエメンの食料不足、コレラ蔓延、空爆の巻添え被害増大など人道危機深刻化
 国際人権機関からの批難にもかかわらず首都奪回できず
*対イラン(シーア派)外交戦争で負け続けたサウジは、国境を接するイエメンだけは失うまいとなりふり構わず金にあかせてアラブ諸国から傭兵を掻き集めて軍事介入したが、最貧国のイエメンにすら勝てないサウジがトルコとイランを味方につけた世界最富裕国の一つカタルに勝てるか?
*カタルはトルコとの枢軸同盟強化。サウジ、UAEはトルコとも敵対。(エジプトは以前から)
*サウジがイランに対抗するためには、スンナ派を糾合しなければならないが、反シーアのサラフィーの看板(9・11の実行者19人中15人がサウジ人)、スンナ派団結の象徴カリフの旗印はイスラーム国に奪われる
*スンナ派最大のムスリム同胞団ネットワークも敵に回す。
 ハマスをテロリストと呼ぶことで、アラブの大義も裏切り、イスラエルとアメリカの手先に成り下がる